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なで肩についての考察

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5月27日のセミナーにご参加頂いた皆様ありがとう御座いました。

まず、最後の質疑応答で「なで肩」について質問を下さった方、的外れな回答をしてしまい、申し訳御座いませんでした。

もし、このBlogを見ていてくれたら・・・と思い、失礼ですが、こちらに考えを書かせて頂きます。


まず頂いた質問ですが 「なで肩は、中に着ていた衣服に関連する"ゆとり分量"ではないのか?」 というものだったと記憶しております。(鎌深の寸法が長いことにも触れていたと記憶しています)

セミナー終了後、様々な専門家の方達に助言を頂き、自身の資料をもう一度見直し考えた結果、以下のような仮説を立てました。
ネクタイ的!男性あるある「美意識だけが受け継がれた説」

それ至った理由は2点あります。
順番に説明させて頂きます。


1・中に着ているシャツ・ベストは、ゆとり分量に関係ない。
今セミナーではジャケットのみを持参したのが間違いでした。シャツやベストも持ってきていれば、より解り易かったと反省しております。

まず、私は19世紀のシャツは大きく分けて2種類あると思います。


左の白いデタッチャブル式ドレスシャツと、右のインディゴスモックシャツです。

この2着、着用者も大きく2種類に分かれます。


まず、この上記のポートレートに写る紳士ふたり。
「白いシャツ」は"権威"の象徴でした。
「カントリーウォッシュ」が生まれるくらいですから、維持費にお金のかかる代物だったのですね。
裁断も曲線で仕立てられています。つまり、生地を捨てる分が多い。
ベストにも注目して下さい。身体にピッタリと仕立てられています。

続いて・・・

スモックシャツ。
こちらは、労働者階級を中心に、芸術家・司祭などが着用していたそうです。
左の芸術家と思しき男性は白いスモックを、右の写真は 背景が教会で写る男性は司祭なのかもしれません。


こちらの上記、2枚は街の物売りや、労働者の写真です。
インディコ(虫除け)のスモックを着ているのが、確認出来ますね。上は中央に下は右下に確認できます。
スモックの特徴は、直線的な裁断と、裁断に付随するギャザーやタックによる運動量の確保になります。


以上の写真から見て解るとおり、白いデタッチャブル式ドレスシャツはベストと共にジャケットの下に着られ、インディゴスモックシャツはジャケットの上に羽織られています。

なので、ゆとりの多く取られたスモックシャツは、質問の回答からは外されると思います。(インナーとして着ていない)
そして、ドレスシャツですが、こちらは身体に沿ってつくられているのですね。


ご存知とは思いますが、この様なシャツは、背中のギャザーなどが多くは取られていますが、決してジャケットに月を及ぼす程のゆとりはありません。
ベストの衿なども同様に、BCまで続きではなく、肩線で切られているものが殆どですので、月への影響はさほど無いと思われます。

以上の事から、中に着ているシャツ・ベストは、ゆとり分量に関係ない。という考えに至りました。


続いて、上記1の事を踏まえ、もしかしたら?と、思いこのように考えました。(ここから先は私の想像になります)

2・「詰め物」のゆとり分量でないか? 

紳士服の歴史に触れたとおり、16世紀には詰め物をしてまでも身体をディフォルメし男性美を作り出す。と云うことがありました。
これは、現代の「毛芯」にまで残る、人間の欲求です。


形は違えど、18世紀も身体を理想の姿に見せようとしています。


インナーのゆとりでは無いのであれば、表地と裏地の間に挟まる「詰め物・芯地」が、なで肩に影響しているのでは?と、仮定しました。

そこで、19世紀の写真を御覧下さい。


19世紀中枢のメスジャケットの背中の裏地


19世紀後半のコーチマンズコートの胸(画像左)と背中(画像右)の裏地。

こうして実際の古着を確認すると、詰め物を使って、身体を誇張するという概念は19世紀末まで残っていたと思います。
実際に触り、着て頂くと解るのですが、完全にディフォルメされています。

しかし、首(月)の部分に詰め物(誇張)がされた古着を、私は1着しか見たことがありません。(月止めを覗く)それなのに、なで肩の製図は残されているのです。

これは矛盾していると感じませんか。?

詰め物をし誇張しているのに、肝心な「美意識のなで肩」には詰め物がされていない。
これはどういう事か。?


そこで、最初の
ネクタイ的!男性あるある「美意識だけが受け継がれた説」
に繋がっていくのです。

これは
「中に着ている衣類には関係はなく、美意識だけが受け継がれた。又はネッククロスなどに付随したゆとりではないか?」
 という事です。 (ネッククロスに関してはこの投稿では言及しません)

イメージしやすい様に 「なで肩」「ネクタイ」に例えてみましょう。

毎日暑いのに、ネクタイ締めてますよね。クールビズとはいえ、ネクタイを締めている男性は多くいます。
これって、何ででしょうか。?
相手に信頼感を与える、自身の気持ちを高ぶらせる、ルールだから、おしゃれ。等々あると思います。
決して現代において、機能的では無いのにも関わらず、そういった副産物を得られる為に、ネクタイを締めています。


これは、なで肩にも当てはまるのでは無いでしょうか。?
想像してみて下さい。
時は19世紀中枢、ある社交界中のラウンジルームにて、紳士がふたり・・・

「寛ぐためのラウンジスーツが生まれたのに、相変わらずなで肩にしてるんだよな~」
「でも、着辛いけど、なで肩だと貴族っぽいし、当時の美意識だったらしいぜ~」
「ルールだしな~ ところで、次の万博さ・・・」

もちろん、こんな会話がされていたとは思いません。が、紳士服の螺旋状の歴史の中で、この様な事が潜在的に起こっていたと想像できませんか・・・?


さて、以上が質問者様への回答となります。

1でひとつの答えになっていましたが、考えれば考える程、楽しくなり、また夢中で古着をひっくり返し、見入ってしまいました。
そのお陰で、2の様に発展していき、ネクタイに着地することとなりました。

あの様な貴重な質問を下さり、本当にありがとう御座いました。


今セミナーの直後から、次はこんな風にしたい、もっとこんな事をやりたい。という考えが、たくさん浮かんできました。
早速、翌日には、お世話になっている久保さんに会い、こんなワークショップを開いたら面白いんじゃないか。?と持ちかけました。
今後は、体験・参加型のセミナーを開催して、言葉を交わし、発見・感動を得る場を設けたいと思っています。

その際は、このBlogを通して発信していこうと思いますので、皆さま宜しくお願いします。


長谷川 彰良

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